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スタッフブログ

メイショウスザンナと普天間助手

2017年1月13日 (高橋厩舎の日常)

メイショウスザンナと普天間助手

メイショウスザンナと普天間助手

平成29年1月4日、メイショウスザンナが競走馬登録を抹消した。

去年の暮から競走馬としてトレセンに戻って来ないことはわかってはいたが、
ネットニュースで流れる「メイショウスザンナ号 引退」の文字を見ると、やっぱり寂しい気持ちになった。

振り返ってみるとスザンナとの思い出は余りにも多い…。

高橋厩舎が開業した年に「メイショウ」の松本オーナーから預からせて頂いたのがスザンナだった。

厩舎として重賞に出走したのも、GⅠに出走したのもスザンナが初めてで、
本当に多くのことを経験させてもらった。

そんなスザンナの隣にはいつも担当の普天間助手がいて、いつでも変わらず優しく彼女と接していた。

「調子はどうですか」そう聞くと答えは決まって
「めちゃくちゃイイよ!あとは気持ち!」と答えてくれる。

この「あとは気持ち」にスザンナの個性が詰まっていた。

スザンナは本当に賢くて誇り高い馬で、
甘えるような所は一切見せなかったし、人に触られることをとても嫌った。

けれども本気で人を噛んだり危害を加えることは一切なく、
子供が側にいる時はジッと見守っていたし、担当の普天間助手が手入れをする時はおとなしく静かにしていた。

「ホンマにスザンナは賢い」普天間助手はよくそう言っていた。

調教では牡馬に負けないぐらい凄い手応えで走り、
競馬では道中、ジョッキーが「勝てる」と思うほどの走りをするのだが、
いざ追い出すと全く走る気を起こさない、そんなことがよくあった。

競馬に行くと気分屋な面は、古馬になってからは特に顕著で試行錯誤の日々が続いた。

そんな中、スザンナにまつわる忘れられない思い出がある。

2014年秋の京都。
返し馬に入る前の地下馬道で、騎乗する武幸四郎騎手や先生と共にスザンナを待っていた。
先生が「力はあるからね。なんとか集中して走ってくれれば…」と言うと
幸四郎騎手も「そうですね。調教の感触からすると重賞勝てる馬ですよ。もっとやれると思うんですが…」
先生「やっぱりそう思うやろ…」
そんな会話をしながら全員が歯痒く感じていた時だった。

同じく隣で騎乗馬を待っていた武豊騎手が、こっちに向かって得意気に

「(俺が乗って)桜花賞5着やぞ!」と笑顔で言った。
そのひと言に、自然と笑みがこぼれた。

近代競馬を代表する不世出の天才騎手の記憶の中にも、確かにメイショウスザンナの居場所はあった。
そのまま豊騎手は騎乗馬に跨って行ってしまったけれど、僕はなんだかそのことが嬉しくて、この光景を生涯忘れないだろうと思った。

それから年が明け2015年、スザンナは6歳になっていた。

前年の暮れには一緒にクラシックを闘ったジェンティルドンナやヴィルシーナも引退していた。

「だいぶ歳取ったなぁ」

放牧から帰ってくるたびにそう思ったし、調教で跨る助手や難波騎手も「ちょっとずつやけど体が硬くなってきてる」と言っていた。

「なんとか重賞を勝たせて牧場に帰してやりたい」

先生も普天間助手も心底そう思っていた。

年明け2戦目の福島牝馬Sは3着だったが、勝てるというくらい手応えがあった。

当時手綱を取っていた松田騎手は「絶対小回りの札幌は合う」と確信していた。

夏の大目標をクイーンSとし、それに向けて最高の状態に持っていこうとスタッフは決めた。

何よりスタッフの仕上げ方とスザンナ自身がしっかりと噛み合うようになってきていた。

そこから2戦を挟んで渾身の仕上げで臨んだクイーンS。

スザンナは道中最後方に近い位置から、直線一気で他馬を豪快に差し切った。
メイショウスザンナはクイーンSを勝った。

ここまで我慢して努力したスタッフの結果が報われた気がして本当に嬉しかったが、
喜ぶスタッフやジョッキーの輪の中に普天間助手の姿はなかった。

出張人員の調整で、北海道へは帯同せずテレビで担当馬の晴れ姿を見ていた。

「普天間さん、おめでとうございます。けどほんまは自分で馬を曳きたかったですよね」
そう言うと「ええねん。勝ってくれたからそれだけで充分、ほんまに良かった」と
いつものようにニコニコしていた。

 

それからスザンナは競馬に勝つことはできなかったが、重賞で3着になるなど、最後まで厩舎を盛り上げてくれた。

そして2016年の府中牝馬Sを最後に繁殖に上がることになった。

 

思えば僕は何度もスザンナのことについて普天間さんと話したが
普天間さんに取ってのスザンナはやっぱり特別な存在だった。

厩舎が開業して間もない頃にスザンナが高橋厩舎に入ってきて、そのまま普天間さんが担当することになった。
20代半ば、この世界に入ってまだ何もわからない状態だった、

そんな自分をクラシックへ連れて行ってくれた担当馬には感謝の気持ちしかない。

スザンナの引退が決まる前から、

「お母さんになったならどんな種馬が合うか?」

「お父さん(アグネスデジタル)の血からダートでも走るんじゃないか?」

「トータルの能力の高い仔が生まれそう…」

そんなことも話した。

「スザンナみたいな女の子が生まれてほしい」

「気分屋なところは似なくてもいいけど…」そう話したあと

「やっぱりそこも似てほしい」とも思った。

 

順調であれば2018年には初めての子供が誕生する。

その日が来ることが、今から待ち遠しくて仕方がない。

 

最愛の馬の子供ともう一度クラシックへ…

若い担当者はきっとその日が来ることを夢見ている-。

 

最後に開業当初より厩舎を支えてくださっている、
松本オーナーに心より感謝申し上げます。

武田

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